青黄でいっぱいいっぱい。黒バスにただハマり中。
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第二話。
『しんすけ』は本当に猫らしい猫だった。
主にしか懐かないし、気まぐれにしか甘えてこない。
それが銀時の庇護欲をまたそそった。
「銀ちゃん。しんすけはいつになったら私に懐いてくれるアルか」
「そら判んねえよ。ずっとこのままかもな」
銀時の膝の上で、神楽をすうっ、と盗み見たしんすけは、耳をぴくっ、と動かせ、尻尾を不機嫌そうに振った。
「可愛くないアル! 懐いてくれなきゃ、可愛くないアル!!」
「俺はすっげー可愛いと思ってんから、問題ねーな」
「定春! 散歩行くアルよ!!」
「あいあい。いってらー」
ガラピシャ! と閉められた万事屋の戸を見上げて、銀時はしんすけの頭をなでた。
「しんすけ、メシにすんか?」
「うなん」
つん、とそっぽを向かれた。
どうやら、腹は減っていないらしい。
しんすけは獣医に訊いたところ、生後一ヶ月、らしかった。
仔猫ならば、人見知りせずにいるだろうに、しんすけは違った。
懐く相手を選び、それ以外には決して懐かない。
(……似てんなー…)
月に一度しか逢えない恋人、晋助のことを思い出し、銀時は含み笑いを漏らす。
すらりとした体型。
プライドの高い気性。
気まぐれにしか甘えてこない性格。
教え込んだワケでもないのに、トイレや躾が行き届いているところ。
高貴な雰囲気。
(あー…まじい。どうしよう…。すっげーかわええ…)
溺愛と言うならば、今の銀時の状態がそれであった。
自然と顔がにやけてしまう。
拾ってきた朝、即刻風呂に入れたときは大抵抗されたが、なんとか綺麗にして、ノミも駆除した今、立派な飼い猫になったと言うのに、しんすけは外に遊びに行かず、銀時の近くをうろうろしている。
『しんすけ』、と言う、自分の名前も理解しているようで、呼べば返事をする。
滅多にゴロゴロ言わないが、銀時が寝ようとして、布団に入ると、すぐにやって来て、ゴロゴロと喉を鳴らし、甘えてくるのだ。
「んなとこまで似なくていいんだぜー?」
「んな…?」
「くあー…。超絶可愛い…」
……自慢したい。
自分のところのしんすけはこんなに可愛いのだと、誰かに自慢したい。
しかし、「しんすけ」の名前を出しても大丈夫な相手、と言うと、限られてくる。
そんなとき。
「聞いたぞ銀時。仔猫を飼ったそうだな」
「ヅ、ヅラ!?」
「ヅラではない。桂だ」
桂が、唐突に万事屋の戸を開けて、エリザベスと一緒に入って来た。
しんすけが面白くなさそうな顔をした。
「ほう! 美形にゃんではないか! 俺にも肉球を触らせ…!」
「近寄んな変態。肉球があればどんな動物でもいいって言うおめーと俺はちげーんだよ」
「なにを! 肉球は正義! ジャスティスだ!!」
桂はムキになって銀時に言い返すが、銀時はそんな桂を無視してしんすけの頭を撫でた。
恐くない、と言い聞かせるように。
「銀時、ときにその美形にゃんの名前はなんだ」
「なんでだよ」
「せめて一声、鳴き声を聞きたい」
「聞かせるかぁぁぁぁぁぁ!!」
しんすけの鳴き声、が、銀時の頭の中で『晋助の泣き声』、に変換されていた。
これは無意識である。
「な、なにをそんなに怒っておるのだ。単に一声、『にゃん』と鳴いてもらえれば…」
「あ…、や、そ、そっか、そっちな、ああ、ははは…」
「……なんだと思ったのだ?」
「うっせえ!」
銀時は若干焦りながら、桂に向かって怒鳴った。
しかし桂は動じない。
まるで別次元を生きているようだった。
「それで、美形にゃんの名前はなんと言うのだ?」
「………」
桂には、自分と晋助のことがバレている。
言ったところで笑われはしないだろう。
桂にも辰馬と言う恋人がいるのだし。
よし。
「……しんすけ…」
「は? いや、高杉のことは今関係な…」
「だから、こいつの名前が『しんすけ』なんだっつの!」
「……」
ああ、今なら先日の晋助の気持ちが判る。
自慢したいけれど、名前を言いたくない。
言いたくないけれど、自慢したい。
複雑な心境だ。
「……」
「……」
ちょっとした沈黙の後、桂が慎重に口を開いた。
「人の趣向に口出したくはないが……。獣姦はいかんぞ。人として」
「しねぇぇぇぇええええええよ!!」
「なんだ違うのか? その『しんすけ』とやらに○○○を教え込んだり○○○をさせたり○○したりしておらんのか?」
「病気かてめーはぁ!! そんなんじゃねえっつーの!!」
そんなことを言っている銀時の頭の中では、猫耳、猫尻尾を付けた裸の晋助が出てきたことは、絶対人に言えない。
「そうなのか。まだしておらんのか」
「まだもなにもこれからもしねえよ!! なあ、しんすけ!?」
「ふにゃん…?」
「おおおおおおおお…!! 鳴き声も愛らしい…!!」
たっし、と、しんすけが片手を銀時の顔にあて、その唇に吸い付いてきた。
「こ、こら、やめろ、しんすけっ」
「はははは。可愛いではないか」
しんすけは甘えたくなると、銀時の唇に吸い付いてくるクセみたいなものがある。
母親の母乳を求めているような、そんな仕草だが、愛らしくて仕方ない。
今も、銀時の顔に片手をあてて、にぎにぎと銀時の頬を揉んでいた。
「まだ母の乳が恋しいのだな…」
「ああ、そうみてー。かーわいいなー、このやろ…」
銀時が撫でてしんすけの顔を下におろすと、しんすけは珍しく、人前だと言うのにゴロゴロ鳴き始めた。
まるで、「銀時は自分のものだ」と言わんばかりに。
「おお、瞳の色も高杉と同じ、翠ではないか」
「まあな。探すの苦労したぜ」
そんな話をしながら、銀時は滅多に逢えぬ本当の晋助のことも想っていた。
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