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青黄でいっぱいいっぱい。黒バスにただハマり中。
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 仔猫物語第三







「ぎんとき、メシだぞ」
「うなん?」
 晋助の元にいる白い仔猫、「ぎんとき」は、問い掛けるような眼差しを晋助に送った。
 晋助はクスクス笑い、ぎんときの前に缶詰の餌を出してやる。
「ぎんとき」
「なう」
「ぎんとき」
「んにゃん?」
「ぎんとき」
「うなん?」
「ははは!」
 こんなにたくさん「ぎんとき」と呼んだことなんてなかった。
 閨の最中はあったかも知れないが、ここまで大っぴらに「銀時」の名前を呼べることはなかった。
 それが嬉しくて、晋助は用もないのに「ぎんとき」を呼ぶ。
 呼ぶと、それだけ心が満たされるが、同時に寂しくもあった。
(来月まで逢えねえしな…)
 下では、夢中になって餌を食べている「ぎんとき」。
 けれど、自分の恋人の「銀時」には、来月にならないと逢えない。
「晋助、春雨の動向でござるが…」
 入って来た万斉の方を見上げて、晋助は機嫌悪そうに言った。
「おい、襖閉めろ。ぎんときが逃げるじゃねえか」
「……」
 その、一瞬だった。
「あ!!」
「っと…!」
 飛び出したぎんときは、好奇心に心奪われて、襖の向こうへ逃げ出してしまった。
 万斉が捕まえようとしたが、如何せん、相手はすばしっこく、また、小さすぎた。
 呆然とその場に立ち竦んでしまった晋助は見る見る内に怒りを露にして、万斉の頬を拳で殴り付けた。
「てめえ!! どうしてくれる!! ぎんときが迷子になったら、どう責任取るつもりだ!!」
「お、落ち着くでござるよ! この屋形船では、出入り口は塞がっているでござる。船内を探せば、詮無きこと」
「ちっ! おい、兵隊全員出せ! 徹底的にこの船捜せ!!」
 そうして、「ぎんとき」大捜索が始まった。




 それから数時間後。
 万事屋の電話が鳴った。
「あいあい。もしもしぃ?」
「銀時!!」
「……」
 切羽詰った声が聞こえ、それは自分の恋人の声だとすぐに判った銀時は、言葉を失った。
 ゆるゆると思考回路が動き出し、まずは確認する。
「……晋助?」
「んにゃ?」
 膝元にいた「しんすけ」──黒い仔猫──が返事をする。
 銀時はしんすけに「お前じゃないよ」と頭を撫でて、受話器に耳を押し当てた。
「銀時! ぎんときが逃げた!」
「は? いや、俺は逃げてねーし」
「ちげーよクソ天パ!! 『おれの』ぎんときが逃げたんだよ!!」
「は? だからおめーの銀さんは逃げてねーよ? なに? なんの話?」
「だから!! ぎんときが逃げたんだ!!」
「だから、逃げてねえよ!」
「おめーじゃねえよ!!」
「だったらだれなんだよ!!」
「猫だよ!! 猫のぎんときが逃げたんだよ!!」
 ……最初からそう言え…。
 と、思ったが、恋人の真剣な言葉を足蹴にするワケにもいかず、銀時は困り果てた。
「探したのか?」
「屋形船ん中は全部探した! 外に出るにゃあ、川渡らなきゃなんねえ!! あいつ、泳げねえから、まだ船ん中いるはずなんだが、出てこねえ!!」
「仕方ねえな…。俺も行くわ。場所教えろ」
 そんなこんなで、銀時は「ぎんとき」探しの依頼を受けることになった。





「……銀時、なんだこれ」
「あ? うちのしんすけ。可愛いだろ。おめー、こいつと遊んでろや」
 銀時が「しんすけ」を連れて晋助のいる船へとやって来て、万事屋にひとり残しておけない「しんすけ」は、晋助に面倒見させることにした。
 晋助は微妙な表情をしていたが、銀時は大して気にしていない。
 猫は猫らしい気質のやつに任せておけばいい。
 しかし、しんすけは晋助の腕の中からするり、と抜け出て、銀時の足元に絡んだ。
「おいしんすけ。俺ぁ仕事なんだよ。晋助と遊んでろ」
「う゛ー…」
「んな怒るなって」
「にゃにゃ、にゃあん!」
「なんだよ」
「ふにゃー、ふにゃんっ」
「だからなんだってば」
 文句を言われているのだろう、と判断した銀時は、宥めるようにしんすけと会話じみた真似をする。
 さて、それに嫉妬したのは本物の晋助の方だった。
「銀時!」
「うお!」
 急に腕を取られて、気付けば晋助が片腕にしがみ付いていた。
「早く探しに行こうぜ。仔猫なんかに構ってねえで」
「いや、ま、そりゃそうなんだけど…。どした、晋ちゃん」
「うるせえな! てめーがドン臭えから、おれが先導してやってんじゃねえか!」
 ふと見ると、晋助の顔はほんのり赤く、視線はしんすけを睨み付けていた。
(ったく…。変なとこでガキだなー…。そこも可愛いけどよ)
「ぎんときはまだ仔猫なんだ。隙間がありゃ、どこにでも入っちまう…」
「ま、大丈夫じゃね?」
「なんでんなこと言えんだよ!!」
「仔猫のいる場所なんざ、太古の昔から相場は決まってんだよ」
「どこだよ!!」
「『しんすけ』が探してくれっかもな」
「なんだよ、それ…!!」
「おめーら、部屋の外ばっかり探してたんじゃね?」
「そりゃそうだろ! 部屋の外に出て行ったんだから!!」
 銀時は必死になっている晋助が愛おしく、腕ではなく肩に腕を回して、抱き寄せた。
 晋助がされに吃驚して、銀時を見上げる。
「ぎ、銀時、こんなことしてん場合じゃねえんだよ!」
「はらー? 仔猫より、俺のが大切じゃねえの?」
「そ、それは…! でも、ぎんときはまだ仔猫で、ひとりで生きてくには…! 餓死すんかもしんねえし…!」
「俺は? 俺はひとりでも大丈夫とか思ってんの?」
「や、や、それは…、その…!」
「えっちしたい」
「ぎ、銀時!」
「おめーの寝室どこ? 連れてけよ」
「だ、駄目だ!」
「なんでよ」
「だ、だって、ぎんときが…。ぎんときが…!」
「……このままする? だれかに見られたい?」
「な…!?」
「どっちか。ここでするか、寝室でするか」
 銀時が追い込むと、晋助は心底困ってしまったようだ。
 銀時はそれも計算の内だった。
 暫くの後、晋助が「寝室で…」と言ったので、ふたりと一匹して、晋助の寝室に入る。
「で、でも、銀時、ぎんときは…」
「すぐ見付かるぜ?」
「にゃ、にゃ、にゃにゃ、にゃあん!」
 銀時と晋助が布団の上に座ると、しんすけが戸袋目指して鳴いた。
 そこには、小さな隙間が出来ている。
「ここか」
「え?」
「おーい、ぎんときー?」
「え? は?」
「うなん?」
「……! ぎんとき!?」
 戸袋の中から、ひょっこりと顔を出したぎんときは、すとん、と下におりて、しんすけに顔をすり寄せ、「ご挨拶」をした。
「ぎんとき! おめーどうして…!!」
「ふにゃ…」
「おい、怒るな怒るな。おめーら、どうせ怒鳴りながらこいつ探してたんだろ? だから恐くて出てこれなかったんだよ」
「そんな…。だって、兵隊全員使って、探してたんだぜ?」
「こっそり部屋に戻ってた、っつー可能性を端から考えてなかったんだろ。これだから動物初心者は…」
「だったら電話でそう言えよ!!」
「だって、そしたら逢えねえじゃん」
「!!」
 真っ赤だ。
 晋助の顔が、真っ赤になった。
 晋助は回りくどい言い方より、ストレートな物の言い方に弱いのは、もうとっくに知っていた。
 銀時は晋助の身体を抱き寄せ、晋助の耳元に囁く。
「逢いたかった」
「……こっちは…っ、すっげーぎんときのことで心配で…っ」
「こっちの『銀時』のことは考えてくんねーの?」
「……」
「晋ちゃん?」
「……死ね…っ」
 いいムードだ。
 押し倒すにはいいムードだ。
 晋助の身体からは抵抗を感じないし、寧ろ自分にもたれかかっている感じさえする。 
 甘い空気がまとわりついて、晋助が潤んだ眼差しで自分を見上げてきた。
 イケる!!
「晋助…」
「銀時…」
「キス、していいか…?」
「銀時…。それよりも…」
 それよりも!?
 キス以上のこと!?
 こんな無防備珍しい!!
 ここは体力の続く限り、晋助を満足させなければ!!
「晋助…」
「ぎんときが…。……襲ってんだけど」
「は?」
 いや、確かに襲ってるけど…。
「ぎんとき…。今、初めての発情期らしくて…」
「な…!? まさか…!?」
 バッと後ろを振り返ると。
 ぎんときが、しんすけの背後に回って、腰をへこへこさせているところだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぃいいい!! 宅のしんちゃんになにしてんだぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
「……」
「宅のしんすけが…!! 宅のしんちゃんがぁ!!」
 慌ててぎんときを離し、晋助の膝元に届けるが、ぎんときの意識はしんすけに向いているようだった。
「仔猫でも人間でも、節操ねえのは似てんだな」
「俺が節操ねえのは、晋助に関してだけだ!」
「どっちにしたって、やっぱこいつの名前はぎんとき以外あるめえよ」

 銀時はしんすけを、晋助はぎんときを抱き締めて、呆れたようにため息をついた。

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